「師走」 宗像正人
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
あわただしく人々が行き交う街中、日溜りに男性が一人座っている。キャップに眼鏡、口周りに白いひげ。綿入れ袢纏のような上着に襟巻、だぶだぶのズボン。西日でできた影に紛れ込んでいるかのようなこの男性の手元だけが、どこかで見たような動作をゆっくりと繰り返している。写真は多くは語らないが、何かしらじっと見入らせてしまう魅力がこの写真にはある。作者もまた、多くを語ろうとはしない。ただ「街中で私は、見た・・・」と、そういう作者のつぶやきだけが聞こえるようだ。ぶっきらぼうに提示された写真のように見えるが、周囲の影を入れたフレーミングに作者の想いが表されている。数秒間に何十カットと切り替わって映しだされるテレビコマーシャルの画面に見慣れ、見飽きた正月明けの例会で、じっくりと眺めていたいワンカットだった。
「師走」 宗像正人