「春の片隅」(3枚組) 竹之内範明
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
錫杖を持って身を乗り出さんばかりの地蔵の横顔①、お面を付けた女の子②、街中に桜の花びらの小山③。作者の出会った春の片隅」を組んだ作品。1枚の写真ではその一枚からのイメージを脱しきることはできないのだが、こうやって組まれた作品からは、そこに新たなイメージが膨らみ始める。地蔵の視線の先、高いビルの照り返す光、それをバックに猫面の女子が、すくっと立つ。この2枚が作り出す異空間に、ためらいを見せるマスクの女子。③の桜がこの空間から逃すまいと野太い枝を伸ばす…。春の陽気が招いたつかの間の白昼夢のような世界が感じられる。自転車の男はその空間に入り込むこともなく、境界の向こう側を何事もなく通り過ぎていく。そんな世界を作者は3枚で密やかに作り上げている。