「それぞれの視線」  藤田 寛司

選評 : 全日写連関東本部委員  中村 明弘

 二家族5人の配置が面白い。スマホ撮影のために邪魔な鯉のぼりの尻尾を持った中央の男女は夫婦だろうか。その左手前に乳母車を手に持つ女性が二人の子供の母親だろう。子どもの一人、右の女の子は手に石ころをいくつか持っている。場所は河川敷、「石ころ取り放題」が珍しかったのかもしれない。背中に鯉のぼりの大きな目ん玉を付けた男の子は、降りた乳母車の一部を掴んで母親について行く。それぞれの家族の動きが偶然画面に重なり合い、しかも、何かが行われようとした瞬間から少しずれていることによって、各自がバラバラな動きと表情を示している。それがフレームの中で面白い緊張感を生んでいる。強い日差し中でともすれば影になってしまう顔を、少し明るくしたことで、いっそうバラバラな感じが強調された。周囲の風に舞うたくさんの手作りの鯉のぼりに描かれた円い顔、顔、顔…。そして、鯉のぼりの円い大きな口、口、口…。なんともにぎやかな、そしてまた幸せなひとときを描き出した作品である。