「出番前」   遠藤 啓

選評 : 全日写連関東本部委員  中村 明弘

 暗い背景の中にすくっと立った祭り衣装の女性。何かのイベントで「よさこい」でも踊るのだろうか。モノクロ表現の魅力である白と黒の対比の美しさからか、この女性の「意思」をもすっきりと表しているようだ。カメラマンを見つめるどこか憂いを含んだような表情も魅力的だ。結った髪とかんざしとにトップライトに近い光が差し、さらに白い上着のきりっと伸びた袖が光り、出番前のこの場の緊張感をも作っているようだ。昔から「写真は引き算だ」と言われる所以をこの作品に見た思いだ。しかし、なんでも引いてしまえばいいではない。女性のきちんと揃った祭り足袋も大事に表現していて、その行き届いた撮影者の眼と心に拍手、である。