「純真無垢な瞳」 矢島一美

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 父親に抱っこされた少女がじっとカメラを見つめている。「純真無垢」と作者も題しているように、その瞳のかわいらしさに、こちらが「どぎまぎ」してしまうほどである。彼女がじっと見つめるのはカメラを構えた作者。作者がこの子の視線にどう向かい合ったのかが、この写真である。これだけ近くで、大きなレンズに睨まれたのでは逃れようもない。まるで銃に狙われた小鹿のようなもの。ただ小鹿と違うのは、この少女は父親のたくましい腕にすっぽりと抱かれ、自らも父親の首に小さな腕を回してしがみつき、ぴったりと頬をくっつけている。この安心感が、彼女にはある。そのことが、ちょっぴり舌の先を出した上目遣いの対応になる。
 「人と接触するべからず」などというコロナ時代の合い言葉が、いかに「異常なもの」であることか、この少女の穢れのない大きな瞳が、大人たちに訴えているようでもある。