「里の秋   」  樋田 進 

 選評: 全日写連関東本部委員 中村 明弘

クレーンが高くのびる秋の空をバックに、赤とんぼが群れて飛んでいる。木漏れ日に温められた階段の石の上でのびのびと後足を伸ばして気持ちよさそうに眠る猫。庭に咲き残る彼岸花。奥の家の屋上ではアンテナの取り付け作業が行われている。山や川のある里の風景とは違うが、この小さな街の秋の訪れが、静かに伝わってくる組写真である。
 一枚一枚が過不足なく丁寧に撮られている。空、足元、そして足元から少し目を上げた遠くへと、3枚の流れに沿って気持ちよく視線が動いていく。コロナ禍でありながら、当たり前の日常が静かに繰り広げられていくことの「幸せ」を感じさせる作品に仕上がっている。