「梅雨空」  樋田 進

選評 : 全日写連関東本部委員  中村 明弘

 激しい土砂降り、捌(は)け切らない雨が路上に一気にこぼれ出している①。水玉模様のこうもり傘にサンダル履きの女性が雨に光る坂道を登っていく②。そして③は、怪しい雨雲と、岩々にぶつかり逆巻く川の姿をとらえている。いずれもどんよりと暗い3枚。降り続く梅雨から逃れられないで耐え忍ぶ人々の不安や、沈黙のようなものが全体から感じられる作品である。モノクロ写真である故にそれぞれの写真の中でのハイライト部分が印象的だ。作者は冷静にカメラを向け、ここに暮らす人々の思いを一つずつ掬い集めているかのようである。3枚の構成がそんなイメージを拡大させてくれる。むろん写真に音は写らないのだが、それぞれの雨音や、流れる川の音までもが聞こえてくる。