「にぎわう毘沙門大祭」(3枚組) 遠藤 啓

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

   高い木々に囲まれた境内に冬日が射し込む。その光を追うようにして被写体を探す作者の姿が見えるようだ。腰をかがめ、また被写体ぎりぎりにまで寄り、さらに高所からも俯瞰して…。作品は「毘沙門天王を拝みに行って、ダルマを買う」という流れそのものに沿って素直に構成されている。特別に目を引くものが写っているわけでもないのだが、作品全体から感じさせる非日常感は、その深い色合いからくるのかもしれない。光を意識した作品は、そのままモノクロにしても面白いかもしれないが、あえてモノクロにしなかったのは、やはりダルマや炎の朱色と日陰や煙の青みがかった色彩の美しさが捨てがたかったからだろう。①の店番をする女性の側からの撮影。テントの隙間からの太陽光と、向かい側の人工光との差異、②の強い斜光線と影、そして炎、③のほぼ中央に釣り下がる電灯光と参道に差す木漏れ日のような弱い光、さらにずっと奥の鳥居に当たる太陽光などなど、そこから生まれるそれぞれの複雑な色合いもこの作品を奥深いものにしている。モノクロでは、均一な明暗の表現になっていたかもしれない。一枚写真のような強さは持たなくても、これら3枚の写真は組むことで互いの色彩を引き立て合い、作品世界の味わいを深めている。組写真の「楽しさ」は、こうして撮ってきた写真を「新たな作品」作りに生かせる楽しさでもある。