「宿場町にて」 樋田 進

選評 : 全日写連関東本部委員 中村 明弘

 何とも心がほっこりとするような、清々しい作品である。その印象はどこから来るのだろうか。赤い自転車は新品ではなさそうだ。荷籠やペタルなどあちこちが錆びている。そんな自転車を大事そうに後ろから引き上げてスタンドを起こす女の子。その表情は何かゆったりとした余裕すら感じられる。カメラマンから何か呼びかけがあったのかもしれないが、安心しきったいい顔だ。ここはどこなのだろうか。古い民家に美しい赤い屋根瓦…。ガスボンベには岡山県高梁市とある。「赤い町並み」の遺るベンガラの里、吹屋。その町の片隅で出会った「赤い自転車の少女」である。重厚感のある赤い瓦屋根との対比が、この可憐な少女と赤い自転車の存在を引き立てている。ラッキーな出会いに「感謝」である。