「靄かかる海」 竹之内範明

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

いつでも海岸に撮影に行くことのできる作者ではあるが、これはまさしくシャッターチャンスをものにした作品である。作者は常に狙っていたそうだ。しかし、なかなかうまく靄ってくれないということだった。一枚目。右下隅に海も見える。手前の草が傾いて風を感じもする。靄の中に瞬間、向かい側の山の一部が姿を現した。撮影者の胸のときめきも聞こえそうだ。2枚目はテトラポットで羽繕いする海鳥たち。右端の鵜が羽を広げた。これもその瞬間をタイミングよくとらえている。靄が薄くなって鳥たちにわずかな光が射す。3枚目。遠くの岩場も靄の中に墨絵のような濃淡を描く・・・。静かだが、刻々と変化していく世界。写真はつくづく瞬間の表現だと感心する。その瞬間瞬間と切り結びながら撮った3枚を組むことで、こんなにもスケール感のある世界を描き出した。みごとである。