「幸せの瞬間」 大川道雄

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

まさしく家族の幸せな時を切り取っている。写真は「ぶれぼけ」であるが、この画面から伝わってくるものはその場の雰囲気、空気感である。赤ちゃんを抱きあげる母親、カメラを構えた女性(おばあちゃんか)、自分も写ろうと体を傾げるベンチの女の子。みんなの笑顔がいい。いまどきファインダーを覗いて撮っている姿も珍しいが、それがいかにも集中した「幸せの瞬間」というものを感じさせる。どうしてこれだけ「ぶれて」しまったのかだが、撮る側も、その「瞬間」を逃したくなかったのだろう。「いいものに出会ったら、まずシャッターを押せ」と言ったのは、その撮影方法を‘居合い抜き’と称されたあの木村伊兵衛さんだったか・・・。もちろんピントはあった方がいい。しかし、その「瞬間と格闘する面白さ」が写真を撮るということにはある。この写真を見た時、私も「今だ!」と思ってしまった。

写真を始めたばかりの作者。「きちんとした写真」もいいが、こんな風に人間社会に飛び出して、人の「幸せの瞬間」に触れ、その瞬間をさらっと切りとるような撮影の腕も磨いていってほしいと思い、推薦作品とした。

「幸せの瞬間」 大川道雄