「 視線 」 藤田 寛司
選評 : 全日写連関東本部委員 中村 明弘
ストリートフォトの名作は、シャッターチャンスが命であり、それは「偶然」の出会いに恵まれなければ生まれない。この作品は、まさしくその珠玉の一枚であろう。
四ツ辻で信号待ちをする3人を振り返させたものは何だったのだろうか…。その答えはこの写真のどこにもない。ただ、左下のシルエットに、それかもしれなという程度に暗示はされているのだが、なによりも、私たちはこの少年の立ち姿に目を引かれる。両足をきちんとそろえ、信号が替わるのを待っていた彼…。その信号待ちのわずかな時間の中に偶然生じたこの瞬間こそが、カメラマンの心をとらえた。
少年だけの頭上に射す光、透明感漂う物憂げな表情・・・。カメラはやや上から抑えたふうにはなったが、遠ざかる車から足元に描かれる複雑な影までをフレーミングしている。その瞬間の判断も、軽快で小気味いい。