「想い出の夏」  樋田 進

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

入道雲をバックに棒の先に止まったトンボ、用を終えて放置され、たたずむ交通整理姿のマネキン、道端に勢いよく咲くノリウツギの群れ…。夏を振り返るといくつかのシーンが思い浮かんでくる。ここに並んだ3枚は、作者がそれを求めて、というより、通りがかりに、瞬間カメラに収めたものだろう。カメラでスケッチしたといってもいい。それがこうして3枚に構成されると、「コロナ、コロナ」とかまびすしく騒ぎ立てている世間の、すぐそばにこういう静かな空間のあることに、なぜかほっとさせられる。ああ、日常とは、こうだったのだと…。作者にとっては夏の思い出ということだが、私たちの「普通の」日常を思い起こさせしてくれる作品であることが、うれしい。