「くつろぎの時」 竹之内範明

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 ランニングシャツ姿の少年。すぐそばのストーブに鍋が乗ってはいるものの、湯気が出ている気配はない。しかし部屋は暖かそうだ。この子の兄さんだろうか譜面を一生懸命に見ながらギターを弾いている。少年の周りには蓋の開いた筆箱や、分厚い辞書のようなものが開かれたままあり、その向こうにぬくもりを保ったままのように丸まった上着が置かれている。
 小さな丸い裸の肩を出したまま、優しいほほえみを撮影者に返す少年のなんとも言えない笑顔が、この写真の温かさとなって見る者の心をとらえる。さらに、少年を囲むいろいろなものの存在が、ごく普通の日常を覗かせてくれていて、温かだ。
 ところで、少年はなぜランニングシャツ一枚になったのだろうか…、そんな謎も、この笑顔に包まれていつの間にか消えてしまう。どんなに世間がコロナ感染で騒いでいようと、ここには、静かな本当の、何か懐かしい安らぎと憩いがある。