「挟み潰す」 森田光衛

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 台風を避けて入港しているたくさんの漁船。一艘が押されて岸壁との間に挟まれて傾き、海水も入りかけている。互いの船体は太いロープで何重にも結び付けられ、まさしく一心同体、強いきずなで結ばれているといった様子である。ここには、さっそうとした船の造形美はかけらもない。あるのは、互いを結び付けて身を守ろうとする必死な姿だ。それは船の持ち主たちの願いや祈りであり、ここに暮らしてきた人々の知恵ではあるのだが…。一艘の沈みかけた船を逃さなかったことが、作品に結びついた。
 このコロナ禍、「密」を避けて生活する身からすれば、この写真の「密状態」も、なんとなく懐かしい光景に見えてくるのだから、我々の感性もいい加減なものである。