「夜の店先」 竹之内 範明

選評 : 関東本部委員 中村 明弘

少し低い位置で真正面から撮影したこの写真は、暖色に包まれた舞台の「夜店の一場面」でも見ているようだ。主人公の登場はこれからなのだろうが、麺をすする男女、食べ終わった女性、出来上がるのを待つ人、それに二つの店の女主人など、この場に居合わせる人物たちの表情が読めるようで、しみじみとした味わい深い写真になった。店先に並んだメニュー札やいろいろな売り物が写っているのが、この写真のにぎわいに一役買っている。しかもそれぞれ変化があり、つい見入ってしまう。写真的には、左と右にそれぞれ明るい部分があり、奥行きを感じさせ、人物を浮き立たせている。

少し冷える晩になったのだろうが、この場だけには、温かな人の安らぎのような空気が生まれている。主人公となる登場人物がいないさびしさはあるが、それも庶民のおだやかな日常の一コマらしくていいのかもしれない。力みのない、ストレートな写真である。

「夜の店先」   竹之内 範明