「擦過」 竹之内範明
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
次々と通り過ぎていく目の前の風景…。日々の出来事がページをめくるようにして過ぎ去っていくのに似て…。作者はその過ぎ去る時間に抗うかのようにシャッターを切っていく。日々の「今という時」とまためぐりあうことが不可能であるように、この風景も同じ光の中にまた見ることはできないだろう。やがて作者は、通り過ぎているのは車窓の風景ではなく、彼自身であることを知る…。作品のテーマは「時間」である。普通、組写真は左から①②③と見ていくのが流れとして「自然」であるが、ここでは行き掛かり上、右から左へと「流れ」ている。しかし3枚を右から、左からと行ったり来たりして眺めるとき、少し躊躇する感じが「時間の流れへの抗い」と、ある種の不安感とを生む。③小さく人物が、②蔦に覆われた建物、ひしめく自転車が、そして①の高い絶壁とその上の家々が、映像としてこの作品のイメージを増幅させている。