「帰り道」  樋田 進

選評: 全日写連関東本部委員 中村 明弘

 楽しみにしていたイベントが終わり、そこで手に入れたグッズを身につけたまま家路についた少女。その歩みの一足一足が「ハレ」の時間から日常へと、少女の意識を引き戻していく。背景に広がる田や畑、竹林…。そして遠くには雪を被った富士がうっすらと見えている。少女の髪につけた、これは「ネコ耳」だろうか…、その丸みを帯びた小さな三角形のオレンジ色が、まだ暮れ残る秋の日の中で、彼女の弾んでいた心の名残のように静かに息づいている。少女は帰り道、友人とラインでもしながらここまで歩いて来たのだろう、大きめのスマホがその左手にしっかり握られている。ズックに付いたわずかな土は、この帰り道でのものだろう。この空間の中に写しとめた少女のあまりに純粋な姿に、なんとも言えない愛おしさを感じるのは選者だけではないだろう。味わい深い、見事なポートレートである。