「夏はもうすぐ」 中村紀子

 選評 全日写連関東本部委員 中村明弘

 波打ち際に遊ぶ少女。水着姿だったら海水浴の一コマという写真なのだが、この子は濡れた赤い靴を脱ごうとしている…。そこが何とも詩的である。靴が濡れてもいいという判断に至る短い時間、靴を脱いでしまおうという決断までの短い時間…。少女の中に次々に起きたひらめきが、砂浜に埋もれた小さなガラス玉のように光る…。広い海、大きな砂浜から切り取った、その瞬間の輝きは切なく、美しい。近、中、遠景と描かれた画面の中に人工物の強い直線と小さく寄せて返す波が作る曲線を大胆に単純化して描き出したその造形性にも着目したい。