「対峙」  望月導章

選評 :全日写連関東本部委員 中村明弘

 親子が向かい合って座っているという何の変哲もない写真。しかし、この場の持つ空気感には見るものを引き付ける不思議な魅力がある。若い父親と息子が互いにすくっと背筋を伸ばして何か話し合っているようだ。会話の中身は不明だが、父親はやや伏し目がちにじっと腕を組む。息子の方はきりっと眼を開けて父親を見つめ、テーブルの上に指で何かを書いて父を説得しているかのようでもある。その二人の頭の上には部屋の灯りが一つ。左右対称に描かれた画面からは、何か中世の宗教画でも見ているような静謐感が漂ってくる。「やらせ」や「絵作り」からでは生まれない、この自然さ、その持つ力は深遠だ。こういう親子の会話が存在するということに、心を動かされる作品である。