「春信」 水野隆子

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

   春まだ浅き公園。この方は孫を連れての「お花見」。桜も咲きはじめといったところだろうか。厚いコートに身を包んだ姿は、硬いつぼみを膨らませた桜のつぼみとイメージが重なっていて面白い。「もう春ですよ、コートをお脱ぎなさい!」という花のささやきに耳を澄ましているようなこのおばあさんの表情もいい。作者の心にもはっと何かが届いた瞬間の撮影。巧く決まり過ぎた写真でないところが、おだやかな春の訪れの空気感と繋がるのかもしれない。「春信(しゅんしん)」とは春の訪れのこと。花が咲いたという春の便りのこと。いい言葉だ。いい題名考えることは、写真のイメージを伝える上で大切な作業の一つである。

「春信」  水野隆子