「追憶」 齋藤成伸 

選評: 全日写連関東本部委員 中村明弘

 二人の影が夕暮れの光に包まれるようにして床に映る。追憶はそこから始まる。それは懐かしい子供時代のことやもしれぬ。何か乗り物に乗っていて外を見ているという①のイメージは、まさしく②の走る電車の車窓の風景へと繋がっていく。工場の煙突の白い煙が遠くをゆっくりと通り過ぎていく手前を、鉄塔は現われたかと思うとたちまち流れ去っていく。大きな建物は、差し来る光をまるでフラッシュライトのように点滅させていく。それはパーフォレーション(送り穴)でコマ送りされた映像が逆送りされたかのようにして、追憶のシーンをたどっていく。③駅に残された古い伝言板には、かつて書かれた文言はすでに消されて何もない。こうして短編小説のページがめくられていく。写真という薄っぺらな紙3枚だが、作者の過ぎ去っていく時間に対する想いがしみじみと伝わってくる作品である。組写真というものは、いろいろな表現の可能性をもつものだが、こういう抒情的な短歌のような世界もまた表現できる。こんなシリーズを大事にストックしていったら、その向こうに何か見えてくるかもしれない。