「夢中」 竹之内範明

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 塾からの帰りだろうか、少年が本を読みながら歩いている。都会の午後、人通りの少ない広い歩道。車道の車の往来も途切れ、静かな空間が今ここに生まれている。それにしてもこの少年の手にしている本はかなり大きく厚い。最初の数ページが開かれているようだ。家まで待てないで読み始めてしまったのだろうか…。そんな少年の姿を、かなり低い所から広角レンズで撮影している。そのことから背景の街が少年と重なりながら遠ざかっていく。そうしてできた広い空間が、本に夢中になって一人街を歩く少年を浮き立たせた。少し斜めに写したのはどういう作者の意図があってのことだろうか。作者の目にはこの光景がほんの少しシリアスに映ったのかもしれない。写っているのは単純な光景なのだが、作者はそこに「新しい意味」を発見し、シャッターを切った。今の時代を生きる子供の一面をうまく写しとめた作品である。