「無口な寅さん」 水野隆子
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
全身黒ずくめの男が薄ら笑いを浮かべながら、カメラを見つめている。目と歯だけが白くなんとも異様な雰囲気だ。カメラはやや低い位置からのローアングルで彼を側面から狙っている。お腹の大きな堂々とした体格が強調されたが、左奥に電信柱や電線、建物の屋根、さらに遠くの山などが作る空間をうまく取り入れている。そのごく普通の庶民的な風景とのミスマッチが作品を面白くしている。背景の一部にこのわずかな空間が入ったことで「銅像の紳士」が生き始め、物語が生まれていく。