「浅草模様」  樋田 進

選評 : 全日写連関東本部委員  中村 明弘

  ヨーロッパの街角かと思わせる軍服姿の男と外国人の女性。そして中央は大きな香炉に狐面の少年、右は舗道に佇む長いコートに帽子の女性。一見ばらばらなロケーションに、迷子にでもなったかのように目が彷徨い始める不思議な作品である。題名に浅草という地名があることで、そこから②の浅草寺はわかるものの、①③は依然として不明のまま…。ところが3枚のこのバラバラさ加減が、「浅草=日本」のような所でありながら、今や特殊な「日本」であるということの不思議さに作者は引かれたのだろう。地名というのはその名を聞いただけで様々なイメージが湧いてくるもの。作者は、地名の持つイメージに、全く異なるイメージの世界をぶつけようとしている。それがこの作品では①や③の異国性や時代の不確かさとなって表わされているのだろう。その2枚の真ん中に浅草寺の常香炉という昔からの「不変」なものを置き、しかもそこへ狐面を付けた少年という異次元の世界を持ってきて、見るものを「煙に巻いて」しまおうというのだろう。多少の飛躍はありながらも強引に読み取らせてしまうのは、同質に整えられた美しいプリントで3枚がつながったからであろうか…。