「気遣う」 森田 光衛
選評 : 関東本部委員 中村 明弘
山車を引く太い綱を共に手にする兄弟。弟は今年初めて祭りに参加したのだろう。その弟を気遣う兄の視線と不安そうに見つめる弟の視線が手元で重なった。その一瞬を見事にとらえた。兄弟の顔が背景の白い服のおかげでくっきりと描き出され、二人の手だけが重なっていることで、テーマがいっそう際立った。兄の手がたくましく感じられるし、弟の手はぷくぷくしている。この描写も的確だ。華やいだ祭りの喧騒の中でここだけまるで音が消えたかのように結晶した瞬間だ。それを切り取って見せてくれた秀作である。
「気遣う」 森田 光衛