「旅の親子」 望月導章

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

赤系統の色彩の中に、携帯の光が青白く女性の顔をてらし出している。赤いカーペット、濃淡のある洒落た塗り壁。ここはどこなのだろう…。移動用の手押し車が2台。乳母車の方にはこの家族の荷物が無造作に積まれている。母親はベンチに腰掛け、割と大きな子がその膝に眠っている。優しく女性の手がその男の子に添えられている。乳母車に乗っていた小さい子がもう一人いるはずだが…。それに男親はどこに?そんなことを詮索したくなるような「魅力のある」写真だ。色彩の美しさもさることながら、絵画でいう古典的な三角形の安定感のある構図も、写真の魅力を増幅している。少し斜めからとらえたことで、手前の手押し車と乳母車、そして端のベンチへと、右奥に少し空間が生まれたのも良かった。写真は瞬間を写し止めるものだが、ここまで流れてくる時間を探る手掛かりをその一枚の中に発見する楽しみは、見る者の想像力を刺激する。