「わー、すごい」 池田是伸

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 赤トンボが父親の人差し指に止まっている。それを見つめる女の子。「やらせ」でもなく、もちろん演出でもない。ただそれだけの光景が、さらっと映像として提示されている。何の力みもなく、さらっと…。この瞬間をストレートにとらえた軽快さが小気味いい。
 トンボを指に止まらせるには、それなりの「人生経験」が必要だ。娘の前での父親のどや顔こそ写っていないが、この若々しく、たくましい腕と自信に満ちた人差し指。その先っぽに、空気のように軽い小さな赤とんぼ…。その対比が生み出す上質なユーモア、そしてそれに見入る女の子の曇りのない眼の美しさ…。マスクの下の笑顔が容易に想像できる。
 作者は、日頃から河津川の土手の桜や浅瀬に集まる鳥や蝶など、見事なシャッターチャンスでとらえるベテランである。そういう写真をたくさん見せて頂いてきた私としては、作者の人に寄せる目の温かさに改めて心を動かされた作品だった。