「よいしょー」 齋藤成伸

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 例会でたくさんの写真が並んでいる中、この写真に引き付けられてしまった。そしてもう、頭の中からこの映像が消えなくなった。なぜだろう…。特段すごいものが写っているわけではない。四股を踏む男がいるだけなのだ。本人なりに精一杯片足を上げて、まさに今「よいしょっー!」と踏み下ろそうとする瞬間である。まっすぐ伸びた腕の先には白い手袋が気持ちよさそうに空を差している。
 この男性、声も出ていたのかもしれない。いや、「よいしょー」は撮影者の心の声だったのだろう。とすると、共感が生んだ言葉である。この少し遠い距離からだからこそ生まれた共感。よくわかるのだ、この四股を踏む男の気持ちよさが…。
 左隅の鳥居の一部のような妙な形の造形物、右隅にするっと伸びたヤシの幹か何か…。これも中途半端でこんなところでまじめに四股を踏む男の姿と重なって実に「愉快」な作品となった。
 被写体と近づけば心が通うというものでもない。こんなに遠くからでも被写体とまさに一体となって撮った写真だ。見ていてなんとも気持ちの明るくなる作品である。