「天下の大スター」 矢島一美

選評: 全日写連関東本部委員 中村明弘

 池に映る美しい「逆さ富士」を楽しめる絶好の場所。だが、こんなにたくさんの人に池の前に立たれてしまったのでは、一言愚痴もこぼしたくなる。そこで作者は発想の大転換をした。池に映る「逆さ人」…。頭に雪を被った富士を愛でる人たちの「逆さ人」を入れて一枚…、その発想がシャッターを押させた。よく見ると、富士をバックにカメラに収まる夫婦の姿や、腕をいっぱいに伸ばしてスマホを女性に向ける赤いネックウオーマー男、それに応えてポーズする女性など、ここにも人それぞれの姿があっておもしろい。さらに、マスクした女性がこちらを見ている。一人でも顔が見えると、なぜか写真が温かくなる。手前の池を大きく画面に入れ、遠くにちょこんと富士を置いたフレーミングもスケール感の大きさとこの場の空気の冷たさが感じられ、ここで深呼吸でもしたくなる。「天下の大スター」富士山は小さくてもやっぱり大スターなのである。このロケーションで、柔らかく発想を転換したことから生まれた一枚である。