「山 里」  大石 洋

選評 : 全日写連関東本部副委員 神尾 一

 非常に色鮮やかな三枚組写真である。タイトルからすると、春の山里の風景を切り取った物と考えられるが、
①背景から察するに、何処かの神社の境内の石の上に誰かが置いた小さなネズミの置物が何とも可愛らしく、そこに差し込む斜めの光がほのぼのした温かさを感じさせる。
②中心部の斜めに光の当たった部分は、ツツジか何かの花かと思ったが、小さな石仏に掛けられた古びた前垂れだと言う。この光の差し込む方向が①の写真の反対側になって居る事で、三枚の組写真に躍動感が出た。
③この写真が、俳句等で言う処の季語に当たる一枚であろう。菜の花の咲き誇る一方で、路肩には既に盛りを過ぎた桜の花びらが舞い落ちて、足早に過ぎて行く春を連想させる。
 三枚全体の構成としては、光の当たり方が、左の写真は左斜め上から、中央の写真では逆に左下から右上に伸びている様で、リズミカルで躍動感が有る。山里に降り注ぐ春の光を主題としながらも、何やらそこはかとない無常感も伝わってくる心象的な組写真である。③の写真の左右の黒い影の部分が人工的過ぎるので、プリント時に、もう一工夫してはどうだろうか?