「小さな机と椅子の刻」  青木 照実

選評 : 全日写連関東本部副委員 神尾 一

 先ずはおしゃれなタイトルに驚いたが、実に静謐な空気感の有る組写真である。何処かの廃校の中を写したものと思われるが、反逆光での撮影という、露出や、プリントが難しい作品を、巧みな技術で自分のイメージ通りに仕上げている。
①木造の校舎が静かに佇む姿を通して、右奥に視線を誘い、外壁と、白い窓枠によって見る者にこれから始まる物語りを想像させる。
②恐らく作者が一番心を惹かれたであろう学校の廊下。生徒達が大声を出して行き交い、或いは時としては走り回り、授業後には雑巾片手にやった廊下の拭き掃除等々、ここに暮らして居た人々の暮らしや、過ぎ去った時の流れを感じさせる。
③多くの児童達が学んでいたであろう教室の様子を机と椅子を中心にまとめ、左側に先生の机や、黒板等も写し込む事で、画面に広がりと、奥行き感をもたらして居る。又、窓の外の風景も写し込む事によって、①の写真と合わせ見る事で、この学校が、自然豊かな環境に囲まれて居た事が分かる。

この3枚の組写真を眺めた時、整った色調と柔らかな光の当たり具合により違和感なく視線が左から右へと流れ、色々な物語りが湧いて來る。勿論このままでも十分に物語性の有る優れた組写真であるが、全体として少しおとなし過ぎる感じがする。その理由としては、3枚の撮影距離感と、撮影目線の高さもほぼ同じなので、180度のパノラマ写真のような印象を与えている。真ん中の廊下の写真をもっと目線を下げて廊下の表面の傷や木目が鮮明になる程度近づくか、或いは上から俯瞰して、他の2枚とは異なる距離感、若しくは、アングルにすれば更に良くなったと思われるがどうだろうか?