「降りやまぬ雨」 鈴木裕子
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
何かのイベントの夜。こうもり傘を差した男のシルエット。降り続く雨の中、片足が溶けてしまったようにちょっと不思議な画像になった。そんなことが写真を見るものの心に小さな棘のように刺さる。明るく浮かび上がったテントの上の三角旗が視線をリズミカルに奥へと誘う。男は灯りを求める蛾のように引き寄せられていく。テントの前でもこうもり傘が揺れている。コロナ禍、久しぶりのイベントなのだ。明快な白と黒の世界に、何か不安げな雰囲気も流れているように思えてくる。空には夜の街の灯りを吸い取るかのように、雲が薄明るく広がっている。作者の心象的な世界にこの男と一緒に引き込まれるような作品である。