「傘一つ」 斎藤成伸

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 雨の日の二人、いわゆる[相合傘]である。普通は、男性の方が持っている傘に女性を誘うというものではないかと思うのだが、この写真に写っている二人は、逆である。しかも、男は自分も手に大きめの傘を持っているのに…。これはいったいどういう状況か…。さらに、女性の方は、男性の体半分が傘の外に出ているというのに、傘に入れてやろうという感じではない。男の方が何とか身をすり寄せて女性の傘に入ろうと、ちょっと「哀れ」な恰好になっている。作者の「冷めた」目が、それを見逃さなかったというわけである。しかし、この二人を画面の左に寄せて、雨に濡れる横断歩道と寂しげな商店街とが作る空間を広く取ったことで、なんとか「雨の日のロマン」を保ったところが、作者の「やさしさ」なのだろう。