「町工場の朝」 大石憲一

選評:全日写連関東本部副委員 神尾 一

川崎の工業団地あたりで良く見掛けるような光景である。後継者も居ないのか、老骨に鞭打って、高齢の男性が台車を押しながら職場へ向かうのであろう。モノ作り大国から転落した今の日本を象徴するかの様な一枚である。全体としては町工場の雰囲気も出ていて良い写真だと思うが、ピントがこの老人に合って居る事から、作者はこの老人個人に興味を惹かれたのであろう。画面上からは、バックの古びた壁面や、工場入り口の寂びた鉄扉等も色彩的に趣があり、人物は点景としてもう少し小さく扱った方がより題名に合うのではなかろうか?具体的には、壁面の青い部分がもっと出る様に引いて撮り、地面はもっとカットした方がより町工場の雰囲気が出ると思う。何れにせよ、普段なら見過ごされてしまう様な日常の風景を切り取った作者の感性は素晴らしい。