「戦い」 阿部美智子

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

足元に寄せる波に向かって手にした濡れ砂を投げる少年。投げた砂が弧を描くように黒く写っている。彼の姿は、踏ん張る左足と傾いた頭は何とかその形が見えるが、他は激しい動きにボケてしまっている。押し寄せた白い波も今まさに引き始め、砂浜がまだ濡れている。少年の目と心に、海はどう映っているのだろうか。己に向かってくる巨大な何か…。それに砂を投げて対抗する小さな小さな命…。誰もが幼い時に経験したあの心の躍動、胸の鼓動がよみがえってくるようだ。撮影者の足元も波に濡れて…。