「三番叟」 金崎 茂
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
なぜか、この作品に魅かれるものがあった。舞っている男性の表情に…、それともバランスよく画面に収まっていることに…。かつて糸操り人形の三番叟は見たことがあるが、「三番叟」の何たるかも知らず、ただただ、この作品に見入ってしまった。調べてみると、三番叟の舞は五穀豊穣を寿ぐもので、舞は農事に関わる地固め等の所作があるとのこと。「足拍子を力強く踏み、快活・活発に舞う」ものらしい。男性が面を付けずに直面(ひためん)で舞っているのは、三番叟前半の「鈴ノ段」というものらしい。
作者は舞台正面からでなく横から狙っている。舞の途中、演者がぐっと体をひねったところをとらえた。そういう舞の動きが感じられるのもこの作品の魅力の一つ。さらにこの場面での演者の表情がいい。老人や動物などの面を付けたものだと、それは三番叟の紹介写真で終わっていただろう。つまり、この作品は「三番叟」を撮ったのではなく、三番叟を「舞う男」を撮ったのだ。そういう作品になっている。