「肩車」 大石 薫

講評: 大西みつぐ

 力強い男性の右手です。それは、私たちすべての人たちにとっての記憶の中の「父の手」でもあります。こうした手を私たち自身が子や孫に差し伸べてあげられているのかという内省のもと、愛おしさの極地がここに描写されていると感じます。すり減った下駄の角、鼻緒、絆創膏、足下の擦り傷。どれもこれも愛おしく懐かしい。同時に肩車の感触まで蘇ってきます。単刀直入に部分だけを切り取りながらも豊かな世界を見事に表現した作品。