「祭りの宵」 矢島一美

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

不思議な緊張感のある作品である。「連なる鳥居」は今や外国人にもたいへん人気があるそうだが、この場所も昼はきっとにぎわったに違いない。そんな昼の喧噪が消えた祭りの宵の一隅である。

提灯の灯りに照らされて鳥居が赤々と浮かび上がる空間の中に、幼子を抱っこして若い家族だけがたたずんでいるという光景は、なにか不思議な感じがして、想像がいろいろにふくらんでくる。

彼らが見つめる先にはまだわずかに「喧噪」の余韻が残っているのかもしれない。だが彼らはそこには入って行かない。幼子を初めて連れての祭りの宵。できたばかりの新しい家族にとっての祭りの場は、まだまだ「異界」なのかもしれない。

この写真は、そんな若い家族の今と、これからに想いを寄せる作者の心をも感じさせる作品である。

「祭りの宵」 矢島一美