「焼き芋」 宗像正人

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

主題はもちろん「焼き芋屋のおじいさん」である。この写真の魅力は、この「おじいさん」の魅力だからだ。低い位置から広角レンズで近づいての撮影は、膝に置いた右手を強調した形になった。そして一途に何かを思っているような彫りの深い顔と、焼きいも機の上にそっと置かれた左手。その三つの表情がこの人物の「これまで」や「いま」をいろいろに想像させ、味わい深い作品にしている。遠赤外線の焼きいも機の細部がよく出ている割には、写真の上半分(顔の周囲)を暗く落としているのが、少し気になるところではある。「長寿やき」と手書きの小さな表示はあるが、「どうしても売らなければ」という感じでもない。ひなたと焼きいも機から暖を取り、日がな一日ここに座る「焼き芋屋のおじいさん」そのものが、なんだか「ふっくらとした焼き芋」に見えてきた。なるほど題名が「焼き芋」とあるのは、そういうことなのだろう。

「焼き芋」  宗像正人