「母の想い」 櫻井吉正

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 かわいい巫女さんのできあがり間近、というところだろうか。わが子に化粧を施す母親の姿、その真剣な表情が美しく捉えられている。
 二人の間にできた小さな空間に祭り衣装の男が遠くで一休みしている姿も見える。母親もさっきまで神輿を担いで汗だくだったに違いない。彼女の衣装も少し乱れがちだ。祭りはこれから娘たちの出番へと盛り上がっていく。
 そんな祭りの中の幕間のような時間を見逃さず、逆光の中に視点を定めて冷静に撮ったことが、心の温まる作品を生んだと言えるだろう。
 今年はコロナで、こんな素敵な場面と出会うこともかなわなかった。来年こそはと誰しもが願っているのだが…。