「打ち込み練習」 吉川正宏
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
竹刀をまるでオリンピックのトーチのように掲げて登場する白い稽古着の少女。その満面の笑顔がまぶしい。左の手足が同時に前に出ているのも愉快だ。すぐ前を男の子。こちらは普段着のままだが、竹刀をそれらしく両手で構えての登場。表情もなかなか凛々しい。この二人の対比が実に面白い。師範代らしい男性の大きなマスクはもちろん感染対策だろうが、妙にぴったりとくる。「鞍馬天狗」を思い出す。あの宗十郎頭巾姿を…。後ろには、これまたおぼつかないさまで竹刀を持つ小さな女の子が控えている。母親がその手を心配そうに支えている。画面には、これらの人物の顔が右上から左下へとリズミカルに並んでいる。それをたどると、花が咲いたような笑顔の女の子へと再び視線が戻り、さらに右の男の子へとぐるぐる回りだす。「登場」という集中した場面にカメラを向け、それぞれの表情をうまくとらえていて見飽きることがない。この面白い「群れ」の状態を生き生きとした塊としてフレーミングした作者の目もまた生き生きと澄んでいる。