「 タマに誘われて」 (3枚組) 水野隆子

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

鉄道沿線の路地が舞台である。幼子のまたがった三輪車がうまく進まない。つまずいて前のめりになる。振り返る母親。大きくボケた白い花。親子の歩みはのろい。急ぐ理由もない。作者にも急がなけれなならない理由はないのだが、二人を追い抜く。電柱に絡まる植物。シャッターの降りたままの古い家。この先は行き止まりだろうか…、そんなはずはない…。小さな公園に出る。猫がいる。じっとして動かない。「こんなところに、何をなさりに…?」そんな声が聞こえたような気がした。たしか、「幸福とは幸福を探すことである」と寺山修司が自著に誰かの言葉を引用していたな…。作者もそんな思いでカメラを持って歩いているのかもしれない。