「刻(とき)」 中村紀子

 選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

 3枚の写真には、時が刻まれていくその「つかの間」の姿が描かれている。①地中から這い出てきてここまでは無事に羽化しつつある蝉。朝までには羽根を乾かして飛び立つ時を待たなければならない。② 飛び立つ水鳥。オレンジ色の足を残像のようにフレームの中に残して…・③線路が見える。流れる風景。確かに何かが何処かに向かって進んでいく。その動く実態そのものは定かではない。①②③それぞれに時が刻まれ、今ここに在る。作者自身が言う「短い夏に生まれ疾走する命の刻(とき)」。儚く消え去る時間、その刹那をシャッターで刻み込んだような作品である。さらにこれら3枚には、ここから次へというムーブメントがある。明るい兆しがある。確かに、時はこうして刻まれていくのだ。