「花 火」 遠藤 啓
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
行く夏を惜しむかのような夏花火の光景ではなさそうだ。この作品は、花火を背景にした人々の様々な姿が、花火の上がるたびに暗闇の中に浮き上がっては消えていく、そんなところに魅力がありそうだ。①雨上がりの細い路地。濡れた道に花火が映り、杖を突きながら歩いてくる老人と上半身を乗り出してその老人と声を交わすもう一人の老人。②土手の上に並んで花火を見る人々。その土手下ではスマホで自撮りをする親子。かき氷を食べる子どもはそれでも花火が気になるようだ。③線路横。信号は赤。踏切を渡って花火の見える場所へと三々五々集まってくる人たち。家の前で花火を見る家族の姿もある。花火の夜、束の間に現れた世界が、まるで絵巻物でも見るかのように構成された作品である。