「余は満足」 市野正悟

選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘

青年は眠っているのではない。何かに寄りかかっているのか手前から奥に寝そべっている風でもある。座椅子にでも寄りかかって、今やそこからもずり落ちそうな不安定な格好だ。そんな姿勢でカメラを見ている。いや、撮影者の方に目をやっている…。「俺を撮ってどうするんだ?」という感じだ。つまり、撮られる方は撮ってほしいというわけでもなく、「撮るなよ」というのでもない、あいまいな時間がここにはある。それがそのままこの作品の底辺を流れている。画面上方に広い空間がある。そこにこの青年が深く沈みこんでいくような感じだ。画面右下に瀬戸物の茶碗のようなものが半分見えている。不可解と言えばそうなのだが、この写真を読む手掛かりの一つかもしれない。あまり種明かしをしなくても、十分見るものに何かを感じさせる力を持つ作品である。