「春の日に」 鈴木裕子
選評 : 全日写連関東本部委員 中村明弘
桜咲く春の日に誰に誘われるのでもなく、何か自然にそこにいるといった風の年配の女性を中央に置き、右にはこの日を謳歌する自転車乗りの二人を、そして左には桜の視点から見下ろすようにして撮った一枚を並べている。何といっても中央のこの柔らかな、何の力みもない立ち方、存在感が、この作品の核になっている。左右の写真は、いわば、この人物が生きてきた時間と空間を凝縮したものなのかもしれない。やっと会えた桜が見せる華やぎ、風に舞って散りゆくその軽やかさ…。人生をその桜に重ねるかのようなこの作品の持つ奥深さに、しばし静かに胸を震わそうではないか。